ひふみよ白澤氏・ウェルフューチャーホールディングス舛水氏・SIGNING亀山氏・DEA山田

2026年10月22日に開催された 「第10回 DEA LABO Meetup」のレポート記事です 。「『とりあえず達成』の障がい者雇用に潜むリスク 〜国の動向に先んじる“インワークグロース”という選択〜」を題材に 、舛水努氏・白澤繁樹氏らのセッションの様子をお届けします。エンターテイメントを活用した社会課題解決の最前線をご覧ください。

企業の社会的責任やコンプライアンスとして語られることの多かった障がい者雇用。2026年の法定雇用率引き上げや、障がい者雇用をめぐる制度見直しの議論が進む中、多くの企業が採用や定着、現場マネジメントの壁に直面しています。
形だけの雇用や業務の切り出しにとどまる従来型モデルが限界を迎える中、いま求められているのは、障がい者を「支援される対象」として捉えるのではなく、テクノロジーを味方に「事業を前進させる実戦力」へと昇華させるパラダイムシフトです。

今回のDEA LABO meetupでは、福祉業界の構造改革を牽引する株式会社ウェルフューチャーホールディングス会長の舛水努氏、独自の感性と事業性で鹿児島から障がい者の新たな働き方を発信するひふみよ株式会社代表の白澤繁樹氏、「はたらくホーム」事業責任者・荒井氏を迎え、徹底的な議論が交わされました。

キーワードは、働きながら実務を通じて成長する「インワークグロース」と「生成AIの活用」。義務を文化へと変え、企業と働き手の双方が持続的に成長するための実践的なアプローチをお届けします。

法定雇用率引き上げと規制強化の波——従来の「農園型」「代行型」が直面する3つの本質的課題

現在、日本の企業における障がい者の法定雇用率は段階的に引き上げられており、従業員37.5人以上の企業に雇用義務が課されています。100人規模の企業であれば、原則として2人以上の障がい者を雇用しなければならず、未達成の場合には、企業の規模などに応じて不足1人あたり月額5万円の納付金が発生します。

しかし、実質的にこの法定雇用率を達成できている企業は全体の半数程度にとどまっており、多くの企業が採用難や社内受け入れ態勢の不備に悩まされているのが実態です。

こうした採用難を背景に、ここ15年ほどで急速に拡大したのが「農園型」や「サテライトオフィス型」と呼ばれる雇用支援モデルでした。地方に農園を構えてハーブティーや野菜の栽培に取り組んだり、都市部のサテライトオフィスに集まって箱の組み立てや軽作業を行ったりする手法です。

これらの仕組みは日本の障がい者雇用数を大きく底上げした歴史的な功績がある一方で、そのあり方が国会や厚生労働省の研究会・審議会で議論され、制度の見直しに向けた検討が進められています。

山田「障がい者雇用の現場では、制度の変更とともに大きな変化が起きていますよね」

荒井氏「ここ15年ほどで広がった農園型などのモデルは、障がい者雇用を大きく広げた実績があります。しかし現在、国会で新法の制定に向けた動きが進み、支援事業者に対する届出制の導入も検討されるなど、大きな見直しの時期を迎えています。審議会などでも、既存のモデルに対して本質的な問いかけがなされています」

荒井氏が指摘する課題は、大きく分けて次の3点に集約されます。

  1. キャリア形成の不在:与えられた単純作業を繰り返すだけで、本人の将来につながるスキルやキャリアが身についているのか。
  2. 本業価値への未貢献:栽培された野菜やハーブティーが、雇用元である企業の主たる事業価値の創出に結びついているのか。
  3. 短期的な雇用の入れ替え:助成金や制度の枠組みを利用し、1年未満の短期雇用を繰り返すような構造になっていないか。


実際に、一部の支援事業者では障がい者を雇用したまま研修名目で長期間放置するような事例が表面化し、社会的な問題となりました。

舛水氏「障がい福祉のサービスは全額が公費、つまり税金で賄われています。介護保険とは異なり自己負担が基本的にない分、制度を健全に運営するための厳しいガバナンスが求められます。単に雇用率の数字を合わせるためだけに形式的な作業を用意するのではなく、社会や企業の中で実質的な価値を生み出す仕組みへと変えていかなければなりません」

形骸化した雇用代行モデルから脱却し、企業の本業に貢献しながら働く本人も成長できる仕組みをどう構築するかが、すべての企業に突きつけられています。

障がい者雇用モデルについて話す荒井氏

業務の中で人が育つ「インワークグロース」とは何か?——新卒採用と同じ目線で捉える障がい者雇用の新常識

従来の障がい者就労支援においては、「就労準備性ピラミッド」と呼ばれる考え方が広く用いられてきました。これは、ピラミッドの土台である「健康管理・生活習慣」を整え、その上に「対人関係・コミュニケーション」、さらに「基本的労働習慣」を身につけ、最後に「職業適性・スキル」を習得してようやく就職に至るというステップ論です。

しかし、この手順を完璧にクリアしてからでなければ実務に就けないという前提こそが、当事者の可能性を狭めていたのではないかと荒井氏は問題提起します。

荒井氏「健常者の新卒採用を考えてみてください。入社初日にすべてのスキルが揃っている人などいません。3ヶ月、半年、あるいは3年という時間をかけて、業務を通じて一人前に育てていくはずです。それにもかかわらず、障がい者雇用になると『今、何ができるのか』ばかりが問われ、結果として最初から清掃や単純作業に固定されてしまうケースが非常に多いのです」

そこでDEAが提唱するのが、「インワークグロース」という新しいコンセプトです。

インワークグロースとは、実務の現場に入り、働く時間そのものを通じてスキルを磨き、キャリアを形成していくアプローチを指します。企業の戦力として実務に携わりながら、同時に学ぶ機会を提供することで、本人の成長と企業の業務貢献を両立させます。

山田「インワークグロースという言葉は、従来のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とはどのような点が異なるのでしょうか」

荒井氏「OJTはどちらかといえば雇用する企業側の視点に立った訓練を意味することが多い言葉です。それに対してインワークグロースは、働く当事者自身が主語となり、働くプロセスの中で成長していくことを意味しています。学びながら働き、自己の成長を実感できれば、働く人にとってそこは手放したくない環境になります。結果として長期定着が実現し、企業にとっても雇用の安定という最大の成果につながるのです」

企業が求める「目標雇用の達成と戦力化」、そして働き手が求める「成長と自己実現」。この両者を同一線上で満たすための実践論がインワークグロースです。

はたらくホームの事業内容について話す荒井氏

生成AIという強力な相棒——精神障がい者の強みを引き出し、実務貢献を加速させるテクノロジーの力

インワークグロースを具体的に実現する強力なツールが「生成AI」です。かつては「AIが人間の仕事を奪うのではないか」と懸念されていましたが、障がい者雇用の現場においては全く逆の現象が起きています。生成AIは、認識や表現のギャップを埋める補助輪となり、デスクワークにおける能力を最大限に引き出す支援ツールとして機能しています。

荒井氏「生成AIの登場は、かつてのスマートフォンの普及と同じくらいデスクワークの標準を一変させました。いわば、個人の能力を大きく拡張するロボットスーツのような存在です。パソコン操作や表現に多少の苦手さがあったとしても、AIを適切に使うことで、健常者のデスクワークと何ら遜色のないパフォーマンスを発揮できるようになっています」

現在、日本の障がい者手帳保持者の中で最も増加傾向にあるのが、うつ病や自閉スペクトラム症、ADHDなどの精神・発達障がいを持つ方々です。
こうした方々は、満員電車での通勤や対人関係の多い環境ではストレスを感じやすい一方で、静かな環境でパソコン作業に没頭する際には極めて高い集中力や分析力を発揮することが少なくありません。

DEAが展開するプラットフォーム「はたらくホーム」では、独自に開発されたAIシステムが伴走者となり、日々の業務と学習をサポートしています。

山田「具体的には、AIを使ってどのような業務を行っているのですか」

荒井氏「たとえば、企業の競合製品についてAIを用いてリサーチを行い、比較レポートを作成する業務があります。また、営業チームが使用するターゲットリストの作成も行っています。さらに進んだ取り組みとして、作成した営業リストの問い合わせフォームに対して、AIと連携して案内文を送信するオペレーションも実装しています。30件に1件ほど送信エラーが発生しますが、そうしたエラーの原因を確認して手動で修正するオペレーター業務などは、非常に高い親和性を持っています」

単なる雑務ではなく、企業のマーケティングや営業といったコア業務の真ん中に障がい者が関わる。AIという相棒を得ることで、彼らは支援を待つ側から、企業の生産活動を直接支える担い手へとシフトしています。

「地方×在宅」が変える雇用の地理的格差——都市部の大企業と地方の人材をつなぐ新たな経済循環

インワークグロースとテクノロジーの融合は、障がい者雇用における「地理的な需給のミスマッチ」にも劇的な解決策をもたらしています。

日本の雇用構造において、大企業が集中する東京や大阪などの大都市圏では、各社が法定雇用率を満たすために障がい者の採用活動を激化させています。しかし、通院や体力的な理由からオフィスへ毎日出勤できる身体障がい者などの割合は全体の3割程度であり、都市部における人材の獲得競争は激しさを極めています。

一方で、地方の現状は全く異なります。

舛水氏「地方に行くと、中小企業が多いため法定雇用率をクリアしている企業がほとんどです。その結果、地方の就労支援施設で一生懸命訓練を受け、高い意欲を持っている障がい者の方々がいても、地域内に受け入れ先の企業が存在しないという深刻な問題が発生しています」

この都市部の「人手不足・雇用枠不足」と、地方の「雇用先不足」を結びつけるのが、完全在宅ワークによる雇用モデルです。

荒井氏「全国どこに住んでいても、在宅環境とPC、そして適切なサポート体制があれば、東京の企業の一員として働くことができます。さらに、地方在住の方が東京の企業に直接雇用されることで、東京都の最低賃金(時給1,150円水準)が適用されます。地方の平均的な工賃や最低賃金と比較して大幅に高い収入を得られるため、経済的な自立に向けた非常に大きなモチベーションになっています」

地方にいながら都市部の先進的な業務に携わり、適正な報酬を得る。この循環は、当事者の生活基盤を安定させるだけでなく、地方創生とダイバーシティ推進を同時に前進させる実践的なモデルといえます。

地方の雇用の現状について話す舛水氏

「義務」を「ワクワクする文化」へ昇華させる——クラフトビールやスパイスカレーから学ぶ実践的アプローチ

障がい者雇用の議論において抜け落ちがちなのが、「働くことそのものの楽しさ」や「成果物への誇り」です。社会的な義務感や同情から生まれる仕事は、長続きしません。この課題に対して、ユニークかつ圧倒的な実践を行っているのが、鹿児島県で就労継続支援B型事業所などを運営するひふみよ株式会社の白澤繁樹氏です。

白澤氏はITベンチャーやクリエイティブ業界を経て福祉の世界に参入し、現在は障がいを持つメンバーとともに本格的なクラフトビールの醸造やスパイスカレーの専門店、アート制作などを手掛けています。

白澤氏「先日開催された鹿児島県新特産品コンクールにおいて、名だたる焼酎やお菓子などの特産品を抑えて、私たちが作ったクラフトビールが鹿児島市長賞を受賞しました。『障がい者が作ったものだから買う』のではなく、『商品として圧倒的に美味しいし、かっこいいから選ばれる』という状態を最初から目指しています」

白澤氏は、支援の現場において「できない部分を無理に矯正する」という従来のアプローチをとりません。

白澤氏「人は誰しも凹凸(でこぼこ)を持っています。福祉の現場では昔から、その凹んだ部分を平らに埋めようとする傾向がありましたが、私はそうは思いません。凸凹をそのまま活かせばいいのです。彼らは何も描かれていない真っ白なキャンバスのような存在です。ビール造りもスパイスカレーも工程が多くて大変ですが、大変だからこそ多様な仕事の引き出しがあります。一人ひとりの特性を丁寧に見極め、本人が熱中できるステージに当てはめていくことが重要です」

亀山氏からも、このアプローチに対する深い共感が示されました。

亀山氏「私たちが提唱している『FUNclusion(ファンクルージョン)』という考え方があります。インクルージョンを義務として捉えるのではなく、健常者も障がい者も『何が楽しいのか(FUN)』から入っていく姿勢です。趣味や楽しさを共有することで、障がいの有無という壁は自然と溶けていきます。白澤さんのビールやカレーの取り組みは、まさにその理想を体現されていると感じます」

成果物そのものが社会的に高く評価され、消費者がファンになる。その過程を経験することで、働くメンバー自身が自己肯定感を持ち、次のキャリアへと自発的に歩み出していきます。

自社の事業内容について話す白澤氏

孤立を防ぎ長期定着を実現する「三位一体の支援体制」とセルフケアの仕組み化

在宅ワークや高度な業務への挑戦が進む一方で、避けて通れないのが「就労の継続性・定着」の課題です。特に精神障がいを持つ方々の場合、日々の体調やメンタルの波によって業務の継続が困難になるケースが見られます。

現場で実際にサポート業務にあたるDEAの吉崎氏からも、現場のリアルな実情が共有されました。

吉崎氏「10月に入社した未経験の方が、AIを活用してゲームのプログラミングまでこなせるようになるなど、適切な環境があれば素晴らしい力を発揮できることを日々実感しています。しかし同時に、その状態をいかに長く、安定して維持できるかという継続性の担保が大きな課題であると感じています」

この問いに対し、白澤氏は「セルフケア・セルフコントロールの可視化」の重要性を説きます。

白澤氏「私たちの事業所では、利用者と一緒に『自分自身の取扱説明書(トリセツ)』を作る取り組みを行っています。『どういう状況になると自分はパニックを起こすのか』『どんな言葉をかけられると逃げ出したくなるのか』、逆に『どういう環境であれば安心して集中できるのか』をあらかじめ言語化しておくのです。自分の特性を客観的に理解できれば、不調のサインに早い段階で気づき、周囲にヘルプを出すことができます」

さらに舛水氏は、個人や単独の企業だけに負担を負わせない「三位一体のサポート構造」が必要不可欠であると指摘します。

舛水氏「雇用を長続きさせるためには、企業、就労支援事業者、そしてシステムを提供するプラットフォームの3者が強固に連携しなければなりません。特に、これまで本人の特性を深く理解してきた地域の就労支援事業者が、就職後も伴走し続ける体制が重要です。企業側も『採用したから終わり』ではなく、地域の支援事業者に継続的な見守りを依頼し、必要なコストを分担する意識を持つことで、2重3重のセーフティネットが機能します」

1人の働き手を孤立させず、企業・専門家・テクノロジーが一体となって支え続ける。この重層的な仕組みこそが、安心感を生み、長期的な定着を確かなものにするのです。

参加者からの質問に答える白澤氏

さいごに

障がい者雇用は今、「法令順守のための義務」から、「多様な人材の強みを引き出し、事業成長を牽引する経営戦略」へと大きく舵を切っています。生成AIという強力な武器と、業務を通じて人が育つインワークグロースの実装は、これまで埋もれていた個人の可能性を社会の確かな資産へと変えつつあります。

違いを排除するのではなく、互いの凹凸を活かし合いながら新しい価値を共創していく未来へ。DEA LABOはこれからも、実践者たちの挑戦を追い続けます。

※当日の様子はこちらの動画をご覧ください

■関連リンク

DEA LABO 公式サイト|https://dealabo.jp/

DEA LABOでは、今後リアルイベント開催以外にも記事コンテンツなどで随時、関連情報を発信してまいります。また、リアルイベントは今後も定期的に開催する予定です。Peatixや公式サイトなどで周知してまいりますので、ご確認いただければ幸いです。

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