社会のルールに「遊び」を実装する。元テレビ東京のプロデューサーたちが仕掛ける、防災をエンタメにする挑戦

DEA LABO Meetup #4レポート。元テレビ東京のプロデューサー今井豪氏を迎え、社会のルールに「遊び」を実装する術を探ります。予算制約を「無茶」で突破してきたテレ東流の知恵を、防災や日本の製造業の活性化にどう転用するか?1700自治体対抗プロジェクト「ピクトレ防災チャンピオンシップ2026」や田村淳氏との「社会実装」への執念など、義務を文化(エンタメ)へ変え、社会を動かす熱いミートアップの全貌をお届けします。
「社会のルールに遊びを」を掲げるDEA LABOが開催したMeetup #4。今回のゲストは、株式会社HI-NEXU代表の今井豪氏。テレビ東京で数々のヒット番組を飛ばし、現在は田村淳氏と共に「社会実装」を軸としたメディア「XU」を運営する今井氏と、DEAの山田耕三が、「テレビマンの野心」をいかにして「社会課題の解決」へと転換させるかを語り合いました。
01. 元テレビ東京のDNAが紡ぐ「一気通貫」のものづくり精神
ミートアップの冒頭、話題はテレビ東京時代のキャリアから始まりました。現在、ビジネスの最前線で社会課題の解決に挑む彼らの根底には、テレビ東京という組織で培われた独自の「ものづくり精神」が流れています。
山田は、当時のテレビ東京の文化を次のように振り返ります。
山田: テレ東が面白いのは、番組作りが一気通貫なんです。企画から編集まで全部自分たちでやる。さらに制作者が自らビジネス領域に飛び込む人事交流のようなムードもありました。テレビという構造そのものを知りたいという人間が多く、僕自身も「企画を通すためにスポンサーを自ら連れてくる」という動きを早い段階で覚えていました。
これに対し、今井氏も、予算やリソースの制約が逆にクリエイティビティを生む土壌になっていたと語ります。
今井氏: 予算が他局の3分の1しかない中で、スタジオも作れない、タレントも呼べない。そうなると、街に出て体一つでコンテンツを作るしかなくなるんです。制約がコンテンツの工夫を生む。それがテレ東の強みでした。
「お金がないからこそ無茶な企画を乗っける」。その精神から生まれた『田舎に泊まろう!』などのヒット番組は、既存の枠組みを疑い、現場の熱量を信じることで「民泊」という言葉を一般化させるまでの影響力を持ちました。この「現場に飛び込み、リアルな声を形にする」姿勢は、現在の彼らが取り組む社会実装プロジェクトにもダイレクトに引き継がれています。

02. 3.11が変えた価値観:面白さの追求から「日本を元気にする」活動へ
輝かしいキャリアを歩んでいた今井氏にとって、大きな転機となったのは2011年3月11日の東日本大震災でした。それまで「いかに番組を面白くするか」を追求してきたクリエイターとしての視点が、根本から揺さぶられたと言います。
今井氏: 震災後、テレビ屋として何をするべきなのかを考え続けてしまいました。結局、テレビで日本をどうやって元気にできるのかという問いを立ててしまったんです。一局の力では何もできないと無力感に苛まれていたとき、周りの企業に声をかけたら『一緒にやりましょう』という声が次々と上がりました。
この時、今井氏が田村淳氏と共に立ち上げたのが、日本を元気にするためのオープンイノベーションの枠組みでした。当時はまだ「オープンイノベーション」という言葉も一般的ではありませんでしたが、企業同士が枠を超えて手を取り合う様子を見て、今井氏は「言葉が後から付いてきた」と振り返ります。
今井氏: 大きな企業同士が動き出すと、今度は『稟議』という名の呪いが見えてきた。そこでスタートアップの人たちと一緒に動くようになり、インキュベーションという言葉を知る。徐々に白いTシャツとスニーカーを履き始めた2014年頃、ようやく時代が追いついてきた感覚がありました。

03. 「アイデアを実装へ」:株式会社HI-NEXUが挑むビジネスの社会実装
今井氏が長年勤めたテレビ東京を辞め、株式会社HI-NEXUを設立した最大の理由は「アイデアの未実装」に対する強い課題感でした。数多くのビジネスピッチやイベントに携わる中で、素晴らしいアイデアが生まれても、それが実際に社会で形にならない現状を目の当たりにしてきたのです。
今井氏: アイデアが出れば出るほど、それが実装されていないことが気になり始めました。ビジネスピッチに優勝した、その次はなんだろうと。コロナ禍を経て、発信しっぱなしのメディアのあり方に限界を感じました。生み出すところを発信し、さらに実装まで一緒に走るメディアが必要だと考えたんです。
そこで立ち上げられたのが、ビジネスの社会実装を追求するメディア「XU」です。ここでは、単なる情報の伝達にとどまらず、プロジェクトが実際に社会に根付くまでのプロセスを伴走します。
亀山氏も、この「実装への壁」について深く共感を示します。
亀山氏: イノベーションをテーマにしたイベントで、アイデアは出るが身を結ばないケースはたくさん見てきました。サポートする側として関わると点での関わりになりがちで、その後走りきれなかった人たちのやるせなさには非常に共感します。

04.日本の製造業に眠る「発明なきイノベーション」の可能性
今井氏が現在、特に注力しているのが「地方の製造業・町工場」と「DX」の掛け算です。名古屋の町工場で釣り糸のワイヤーを作っていた技術が、医療メーカーと出会うことで世界シェアトップの心臓カテーテルワイヤーを生み出した事例(朝日インテック社)に衝撃を受けたことがきっかけでした。
今井氏: お父様の持つ既存の技術と、他社の最先端の医療を掛け合わせただけで世界にイノベーションを起こした。日本には知られていない本当の技術がまだ無数に眠っています。DXの先端技術と、こうした日本の製造業の力を掛け合わせれば、GAFAにも負けない逆転劇が可能だと信じています。
こうした「日の当たらない技術」を掘り起こし、新しいビジネスとして実装する。これは完成品しか放送できない従来のテレビメディアでは難しかった、今井氏が独立したからこそできる挑戦です。
今井氏: 製造業の人たちは、依頼を受けて作ることは得意ですが、自ら新しいものを生み出す場を持っていないことが多い。その『場』を作り、生まれるまでのプロセスを追いかけるメディアを作りたい。これはテレ東の中では即答で『難しい』と言われる内容でしたから(笑)。
05. 「防災×エンタメ」:無関心層を巻き込むゲーミフィケーションの力
DEA LABOが現在取り組んでいる大きな柱の一つが「防災」です。日本の避難訓練参加率はわずか4%程度という衝撃的なデータがある中で、いかにして無関心層を巻き込むかが課題となっています。
ここで登場するのが、DEAが提供する「ピクトレ」を活用したゲーミフィケーションの仕組みです。
山田: 防災設備の位置を写真に撮り、ポイントを稼ぐ。自治体が把握しきれていない消火栓や避難路のデータを住民がアップデートしていく。これを『やらなければならない訓練』ではなく、自分の好きなタイミングで楽しめる『遊び』に変えていくんです。
今井氏は、このアプローチが世代を超えたコミュニティ形成につながると指摘します。
今井氏: ゲーミフィケーションから入ると、若者がお年寄りから話を聞き出し、情報をアーカイブしていくといった役割分担が生まれます。地域の絆を作るきっかけになる。防災という50以上の業種が関わる広い分野を、一つの大きなコミュニティとして繋いでいく力があると感じます。
06. 自治体対抗「防災チャンピオンシップ2026」が描く地域の未来
ミートアップは、2026年に向けた具体的なプロジェクト「防災チャンピオンシップ2026」の構想へと至りました。これは、日本全国1700の自治体が、市民による防災活動の成果を競い合うという壮大な「大会」です。
山田: 8月までに全国47都道府県の企業や自治体を巻き込み、11月末まで4ヶ月間やりきります。メイン指標はどれだけの市民が参加したか。優勝した自治体には、優勝旗を持って駆けつけます。防災を観光資源にするような地域創生の形を作りたいんです。
これに対し、亀山氏も「日本最大の防災コミュニティができる可能性がある」と期待を寄せます。
亀山氏: 物理的なエリアに縛られるとコミュニティは数千人規模で止まりますが、デジタルで繋げば百万単位の防災コミュニティが生まれます。これは相当に新しいアプローチです。
今井氏も、田村淳氏との対話から「現場主義」の重要性を説きます。
今井氏: 淳さんは一番現場に行きたがる人。困っている人の声を直接聞く人です。このプロジェクトでも、各地域を回り、熱狂している場所も、逆に動いていない場所も、ありのままを伝えていくことになるでしょう。

さいごに
今回のミートアップを通じて見えてきたのは、「メディア」の役割が情報の伝達から「社会実装」へと進化している姿です。テレビ東京というフィルターを通じ、限られたリソースで最大の結果を出してきた彼らの手法は、今、日本の製造業や防災といった深刻な社会課題に適用されています。
そして、今回発表された「防災チャンピオンシップ2026」は、スマホアプリ「ピクトレ」を使って、市民が街中の防災設備(消火栓・AED・避難所等)を発見・撮影・投稿することで、防災意識の向上と防災データの整備を同時に実現する全国ムーブメントです。
これからの展開にぜひご期待ください!
※当日の様子はこちらの動画をご覧ください
■関連リンク
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株式会社HI-NEXU|https://www.hi-nexu.co.jp/
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