防災を「義務」から「文化」へ。エンタメの力と記号資本、市民参加型ゲーム「ピクトレ」が切り拓く災害対策の新しい未来

DEA LABO Meetup #5レポート。関心の薄い層を巻き込み、防災を「義務」から「文化」へ昇華するアプローチを議論。記号資本の活用や、分散型リアルライフゲーム「ピクトレ」の進化に迫ります。
社会課題をエンターテインメントの文脈で捉え直し、関心の薄い層をも巻き込むワクワクする切り口で解決を目指すオウンドメディア「DEA LABO」。今回のミートアップでは、高い志を掲げるビジョナリーな視点と、それを社会に実装するための具体的な仕組みについての熱い議論が交わされました。
登壇したのは、多摩美術大学で彫刻を学び、現在は東京大学生産技術研究所(DSEP)の共同研究員として活動するKiNG氏、そして災害モンスター研究所の石橋氏です。DEAの山田、サイニングの亀山氏とともに、これからの日本における防災のあるべき姿が語られました。
これまでの防災訓練や防災教育は、一部の関心の高い「防災エリート」だけで完結しがちでした。しかし、首都直下地震や南海トラフ地震といった巨大災害に対応するためには、これまで防災に興味のなかったライト層をいかに巻き込むかが重要です。本レポートでは、言葉の純度を大切にしながら、表現やカルチャーの力を用いて防災を「義務」から「文化」へと昇華していくための、具体的かつ実践的なアプローチをお届けします。
01. 表現とカルチャーの力で社会課題を可視化する:「シブヤ・アロープロジェクト」から始まった一次情報の価値
表現やカルチャーの持つ力は、社会課題を解決するための重要な鍵となります。KiNG氏は自身がこれまで関わってきた街の仕組みづくりの実績を紹介しながら、表現の重要性について語り始めました。その代表例の一つが、東京都渋谷区で展開されている「シブヤ・アロープロジェクト」です。
参考:シブヤ・アロープロジェクト(落書き防止アート)
https://shibuya-clean.com/art/
KiNG氏:渋谷区のアロープロジェクトというのは、私が作り上げたものじゃなくて、前任者が手掛けたプロジェクトです。もう一回広めていくというフェーズの時に関わらせていただきました。
「シブヤ・アロープロジェクト」は「一時避難場所」の位置をお知らせする避難場所誘導案内を、アート性あふれる「矢印」のアートとして制作するプロジェクトです。
長谷部区長とともに進められたこのプロジェクトは、デザインの力を使って、普段は意識されにくい避難経路の存在を街の中に自然に溶け込ませる試みです。
さらにKiNG氏は、高齢の方の情報をアーカイブする「一次情報」の重要性についても指摘します。
KiNG氏:Google上に載っていないことで、ネット普及以前に一次情報を作った高齢者の方たちの情報や存在がないものになっていたので、YouTubeなどインターネット上に残す活動をしています。一次情報が載っていないと二次情報以降ばっかりになって、元がないと将来の人たちがエビデンスというか、先が見えなくなるので。
インターネット上に情報がないものは、将来の世代にとって存在しないものと同義になってしまいます。だからこそ、歴史を支えてきた方々の姿を綺麗に、そしておしゃれにアーカイブして残していくことが必要なのです。

02.アーティストが担う「ファーストペンギン」の役割:災害現場にいち早く駆けつける行動力とその意義
災害が発生した際、アーティストという存在が果たすことができる独特の役割について、KiNG氏は自身の経験をもとに説明します。企業や組織に所属している人間は、リスクを恐れて有事の際に迅速に動くことが難しいという現状があります。
KiNG氏:アーティストって結構自由に生きているので、そういう意味では震災が起きる度に第一陣で行くようにしていて。やっぱり会社に所属してたりすると、いろんなことがあって急にはいけないんですよね。アーティストこそファーストペンギンで、無茶したり何かちょっとご迷惑かけても、まあアーティストだし…という免罪符を持っているので、それを最大限に活かす。そうすると、次に行く人たちに向けて私たちが先にリスクを報告するので、動きやすくなります。
実際に、千葉県で風災が発生した際、KiNG氏はニュースがあったその夜に行動を起こしました。女優でありアーティストの玉井夕海氏とともにハイエースを借り、水などの必要な物資を積み込んで現地へと向かいました。
KiNG氏:現地に到着した後、Facebookとか個人チャットで『こうなってます』ということは、発信しました。
石橋氏:これは本当にありがたいですね。やっぱり企業の場合では『今、現地に行っていいの?今のタイミングで行っても叩かれない?』など世間の評価が気になってしまう面があります。そこをリトマス試験紙ではないですが、世間の反応や、ここまでいけるよという一次情報を提示いただけるのは助かります。
03. 映えと継続性の掛け算で生み出す「記号資本」:世界の防災に役立てるためのデザインアプローチ
KiNG氏は、これまでに培ってきたアートやビジネスの知見をもとに、学術的な研究にも取り組んでいます。自身の研究論文が優秀賞を受賞し、その研究テーマは「視認性を記号資本として設計できるか」というものでした。
KiNG氏:いわゆる『映え』ですよね。インスタ映えという言葉を難しく言うとそうなります。この研究で自分が培ってきたものを、この折り返しの人生で日本だけじゃない、世界の防災だったりとか、何か役立てたいなと思っています。記号を資本化するには、継続的にしかるべき場所に置き、しかるべき継続的な発信をしていくことが大事かなっていうのが今、私の中では見えてきていて。
亀山氏:映えとか、派手ということと、継続的に見せるということの掛け算というのが、ちゃんと世の中に伝えていくとか、残していく上で大事ということ…面白いですね。それをあえて防災の中で使っていくと。
防災という領域は、非常に多くのコストやリソースがかかる割には、日常において人々の意識や注目が集まりにくいという大きな課題を抱えています。
KiNG氏:防災って、重要度が高く、時間軸が長いので、ものすごくコストがかかる割に人が集中しづらいんですよね。リソース使っちゃうので。なので、短期的にちょっと見栄えがするものとか、人が心が揺れるもの、そこを生み出すことが得意なので、そういうものを入れていくことが大事かなということで取り組んでいます。
04.服装が持つメッセージ性:東大オフィシャル防災服がもたらす「所属」と「信頼」
記号資本の具体的かつ実践的な取り組みとして、KiNG氏は論文の中で「防災服」の分析を行いました。防災服、スポーツ系のユニフォーム、そしてラグジュアリーブランドという3つの異なる領域を横断的に分析し、そのデザインが持つメッセージ性を紐解いています。
KiNG氏は、東京大学において、新しい防災服のプロトタイプを設計・制作しました。東大のオフィシャルライセンスを取得し、あえて「黒地に黒の文字」というステルス性の高いデザインにしました。
KiNG氏:目的としてはまず身内の中での結束力を強めたいというのと、信頼性を高めたいということで黒地に黒文字にしました。黒にした理由は、割と自分の中の心理的安全性が保てる距離感の人とのコミュニケーションを図るためです。これが見える範囲の方とだったら、会話のきっかけになります。
この新しい防災服の効果は、実際の災害訓練の現場でも見事に実証されました。5月初旬に熊本県で開催された日本初の「広域連携防災訓練」にDSEPメンバー有志が参加した際、テレビカメラやインタビューのメディアがDSEPに集中しました。
石橋氏:一般参加者の立場で作業をしてたんですけど、テレビカメラとかインタビューがわらわらと私のところに集まってくるんですよ。「なんだ?俺、そんなにカッコ良かったかな?」と思っていたら、この防災服を着ていたからだったんですよ(笑)。何も喋らず単に作業しているだけでも周りの方々には背中の記載を見て所属が伝わるんです。なのでメディアの方々も一般の方にインタビューするのではなく、所属がわかっていて的確なフィードバックが期待できる人という期待で取材が私に集中したんですよ。ただこの防災服を着て作業してるだけで「東京大学の災害対策メンバー」であるという信頼性のメッセージ性を周りにしっかりと発信できていたわけなんですね。
会場にいたDSEPの参加者のひとりも「(黒地に黒文字のため)逆に東京大学の文字が目立ちすぎなくて、みんな遠慮なく声をかけてくださいました」と実際の現場での体験談を話しました。
05.「レジリエンス」をグローバルな視点で再定義する:心の余裕と人災としての経済低迷へのアプローチ
東大の教授陣から最先端の科学的知見を1年間学ぶ中で、KiNG氏は防災の本質についての理解を深めていきました。
予測不可能な天災に対して、社会が速やかに復興を遂げるための能力を「レジリエンス」と呼びますが、KiNG氏はこのレジリエンスを高めるためには、社会全体、そして人々の心に「余裕」があることが重要であると指摘します。
KiNG氏:天災ってほぼ予測ができない。地震は予知できないという中で、レジリエンスには、社会的な余裕や人々の心に余裕が必要。そんな中で人災というか、例えば今貧困だったりとか、経済が低迷していたりとか、それによって人々の気持ちが下がっているというのは大問題だなと思っています。
このレジリエンスという概念について、亀山氏は、海外との認識のギャップを交えて次のように解説しました。
亀山氏:日本で防災というと、やっぱりその自然災害に対してどう対応するかという、ある種暗い話になる。海外の人とレジリエンスの話をしていて、全然話が嚙み合わなかったんですよ。
なぜかというと、レジリエンスって海外の人は”心の在り様・復活のさせ方の技術”みたいな意味なんですね。なので、中学生がスポーツチームでチームワークを鍛えるのはレジリエンスのためだよって。心の在り様で、何かあった時にちゃんと自分が立ち直れるような、そういう心の子どもたちを作りたいという話をしていて。
僕らってやっぱり自然災害が身近で、もっと引いてみた時の心の余裕とか社会的なそういう準備みたいなところにまで、実は防災の概念が広げられてなくて。「備蓄しなきゃ」みたいな話になりがちです。だからそういう、災害の中にもそういうファッションやアプローチ方法などのKiNGさんのお話は、グローバルで見ている視点のお話をされてるなということを感じました。

06. 広域かつ常時開催へ進化する「ピクトレ」:市民の地元愛とコミュニティを刺激する仕組み
ここまでのビジョナリーな議論を受け、ミートアップの現場では、その志を現実の社会に実装するための具体的な仕組みの発表へと移りました。山田からは、「ピクトレ」の進化と最新の取り組みについて報告が行われました。
山田:ピクトレは直近もテレビで放送されて「ピクトレをやってみたい」という声が増えてきたのですが、実は関東圏の一部しか開催されていなかったんです。「この地域でできないのか」みたいなことを2年間繰り返してきた、そういうゲームだったのですがなんと今回、広域かつ常設となりずっとプレイすることができます。
さらに、この普及を爆発的なブームへと昇華させるための新しい挑戦として、「ピクトレ防災チャンピオンシップ」の開催について語りました。
山田:このチャンピオンシップの裏の狙いはやっぱり市区町村のコミュニティをブームアップしたいっていうことですね。市民の参加数、ブロックの数などをスコア化して、総合成績を競い合います。そのことによって4ヶ月の実施期間、終わったらどこかが絶対優勝するわけです。思いもよらないところが優勝して、そこが来たかみたいなストーリーが生まれるといいなと。
何をするのかというと、20項目ぐらい挙げている防災関連設備を、皆さん街を歩いて避難所看板や消火栓などを撮る。それによって、位置情報と外観の画像というのをみんなで集めていく。人が撮影したところも重ねてみんながチェックしていくことで、その情報の信頼度スコアというのが上がっていく仕組みになっているというような形です。
このイベントは「史上最大の分散型防災参加イベント」として、8月1日に日本全国で一気に各都道府県で開始される予定です。
07. 防災エリートの壁を越える「災害モンスター」:関心のないライト層を巻き込むワークショップの実践
ミートアップの後半では、参加者が4つのグループに分かれ、実際のアプローチを体現するための実践的なワークショップが開催されました。災害モンスター研究所の石橋氏は、このワークショップの主旨について次のように説明します。
石橋氏:ここまで非常に価値のある情報・面白い話ではあったのですが登壇者からの情報の一方通行だったので、ここからはこの場に参加しているみんなでディスカッションし物を作っていこうと思います。
防災訓練・防災教育って今まではいわゆる「防災エリート」の既に防災に関心を持ってる方々のみが参加する閉じられたコミュニティの中だけで起こっていて、これでは首都直下地震、南海トラフ地震みたいな大きなものに対応できない。今まで防災に関心を持ってない人たちにどう響かせ、広げていくかが大切です。
ワークショップの各テーブルには、石橋氏が独自に制作した「災害モンスター」のキャラクターカードが配られました。これらは、災害の周辺やその後に発生する二次的なリスクなどをユニークにキャラクター化したものです。

石橋氏:例えばここにあるのは、AEDをキャラクター化した災害モンスター『ドキドキ・ビビリー』という妖精です。いわゆる地震だとかいうような直接的な災害リスクとはちょっと違う、少し斜めから切り込んだキーワードをキャラクター化しています。
そのキャラクターから、何か皆さん方がインスパイアされるキーワードをピクトレというプラットフォームを使って、ターゲット層を防災・災害に対するエリート層じゃない方々に設定頂きます。防災関係者じゃない人に「面白いね」とか、「何か参加してみたいね」と思わせるには何ができるかということをできるだけぶっ飛んだアイデアを各グループでディスカッションしていただきます。
ディスカッションタイムでは、各グループ内で簡単に自己紹介を交わし、該当のカードに関するテーマをピクトレと紐づけたらどのような取組みができそうかという内容が議論されました。ディスカッションを終えた後は、それぞれグループの代表者が発表を行いました。

グループ①:ピカゴロニャン
落雷がテーマのカード。避雷針をピクトレを使って見つけて撮影して地図にプロットしていけばよいのではないか。避雷針が普段どこにあるか皆さん知らないと思う。
雷がピカッと光って落ちてくる。光速と音速の差でだいたい周囲何キロに落ちたなというのがわかるので、それをプロット上に「ここに落ちたんじゃないかな?」と勘でピンを差して、実際に落ちた場所が気象情報とかでわかると思うので、その距離がどのぐらい近いか・遠いかということをレイドミッションとして行なう。
そのデータが溜まっていけば、ここ落ちやすいなとかわかってくると思うので、それを元に「ここ落ちやすいので、避雷針を設置した方がいい」みたいな感じで自治体に提案してお金もらうみたいな、そういうビジネスモデルもできるんじゃないかなと考えました。
グループ②:ガチガチベンピー
災害時のトイレの問題について考えました。どこで自分が被災するのかわからない。公衆トイレはどこにあるのかピクトレの仕組みを使って場所がわかればいざという時に使えると思う。
役所広司さんが出ていた「PERFECT DAYS」という映画では、清掃が行き届いている綺麗でモダンな日本のトイレがたくさん出てくる。日本のトイレはおそらく世界トップレベルの清潔度。
そういう場所をピクトレの仕組みを使って見れるようにしておけば、それを見た方が日本の清潔意識が高いということを、例えば海外の人もその映画を見ずとも驚くと思う。
グループ③:ムシムシ・ジメジメー
熱中症のリスクを表現したモンスター。最近気温が上がってきて一番苦しんでいるのはおそらくサラリーマンだと思う。そこをどう救うかということで「温暖化ピクトレ」を考案した。
暑くてどうしようもない時に逃げ込める場所というものが必要だと思うので、喫茶店とか映画館とか涼めるクールスポットを探していく。
ゲームをはじめるとムシムシ・ジメジメーのモンスターが配布され、涼める場所を見つけるたびにモンスターが消えていくという感じにしてみてはどうか。
グループ④:ドキドキ・ビビリー
AEDが主題のモンスター。AEDが抱える課題は、まずどこにあるかわからないということと、見つけても使い方がわからない・どんな人に使えばいいのかもわからないというところにあると思う。
一軒家とかであればおそらくAEDがない家庭の方が多いと思う。一番近いところにあるAEDの場所をピクトレで写真を撮ってアップロードすると、クイズが出てきたりなどAEDを知りたい人にとって役立つ情報が手に入るようにするのはどうか。
また、使い方がわからないという点に関しては、学校や会社で教育して例えば運動会とかでチームに分かれて”「AED持ってきて!」と指示してどこがAEDを早く持ってこれるか”などのレースを開催したら、親や子どもも一緒に効率的にAEDについて知ることができるのではないかと思いました。
参加者全員が、頭から知恵熱が出るのではないかと思えるほど熱い思いをその場で語り合い、防災を「文化」へと昇華するための数多くの知恵が融合した充実の時間となりました。

さいごに
今回のDEA LABO Meetupでは、表現やデザインの力で防災を「文化」へと昇華させるビジョンと、市民参加型ゲーム「ピクトレ」による具体的な社会実装の手法が示されました。義務感による備蓄を超え、地元愛やエンタメを通じて誰もが能動的に関わる未来の防災の形が、ここから始まります。
※当日の様子はこちらの動画をご覧ください
関連リンク
DEA LABO 公式サイト|https://dealabo.jp/
DEA LABOでは、今後リアルイベント開催以外にも記事コンテンツなどで随時、関連情報を発信してまいります。また、リアルイベントは今後も定期的に開催する予定としており、Peatixや各SNSなどで周知してまいりますので、その際には詳細をご確認いただければ幸いです。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
DEA 公式YouTube|https://www.youtube.com/@dea_official_jp
DEAの取り組みや最新情報に加え、実証・実装組織「DEA LABO」の活動、対談企画、イベントの様子などをお届けします。