Asmama甲田氏・SIGNING亀山氏・DEA山田

2026年9月17日に開催された 「第9回 DEA LABO Meetup」のレポート記事です 。「今の日本で、「助け合える地域」はどうつくる?共助から考える、地域コミュニティの可能性」を題材に 、甲田恵子氏らのセッションの様子をお届けします。エンターテイメントを活用した社会課題解決の最前線をご覧ください。

少子高齢化や人口減少が急速に進む現代の日本において、子育てや日常生活における困りごとを抱え込み、孤立してしまう人々が増加しています。こうした深刻な社会課題に対し、「子育てや暮らしをひとりごとにさせない」という強い理念のもと、人と企業と地域を頼り合いでつなぐ「共助コミュニティ」の形成を推進しているのが株式会社AsMamaです。

今回開催された「DEA LABO meetup」では、株式会社AsMama代表取締役社長の甲田恵子氏をお迎えしました。全国の自治体や商業施設等で展開されている先進的な取り組みの実践例をはじめ、従来の「コミュニティ」という概念を超えた「繋がりの創出」、企業における人的資本経営への応用、そして日常的な助け合いがもたらす防災・共助の可能性について、深く掘り下げた議論の様子をお届けします。

創業理念と「共助コミュニティ」の基本コンセプト

株式会社AsMama(以下「AsMama」)は2009年、「子育てや暮らしをひとりごとにさせない」というミッションを掲げて創業されました。創業当時としては極めて珍しく、設立当初から全社員フルリモートワークを採用し、年齢の上限も設けない柔軟な経営体制を構築してきました。

AsMamaが目指すのは、人と企業、そして地域を繋ぐ「共助コミュニティ」の形成です。全国の自治体や企業、商業施設などと連携し、街ごと、組織ごと、従業員ごとの頼り合いをデザインしています。甲田氏ご自身も横浜の本社を拠点としながら、総務省の地域力創造アドバイザーやデジタル庁、内閣官房などの各種委員、さらには一般社団法人シェアリングエコノミー協会の理事を務めるなど、国や自治体、企業の枠組みを超えて精力的に活動されています。

AsMamaの街づくりにおける最大のこだわりは、外部から支援者が一時的に出張して解決を図るのではなく、その地域に住む地元の人々が主体となって地域活性化や課題解決を行う点にあります。

甲田氏「私たちがウルトラマンのように出張していって何かをするのではなく、その地域に住んでいる地元の人が中心になって地域活性化の施策を行っています。イベントはどうしても『点』の取り組みになってしまうので、点と点の間に起こる日常の困りごとを、デジタルやアプリを活用して解決していく形をとっています」

現在、AsMamaの研修を受けた地域のサポーター「シェアコンシェルジュ」は全国に約2,500名以上存在します。彼ら・彼女らとともに実施する地域活性化の取り組みは年間約2,500件以上にのぼり、提供するアプリは10万世帯以上のユーザーに活用されています。

自社の取組みの説明をする甲田氏

「コミュニティ」創出から「繋がり創出」への思想転換

コミュニティの形成や維持においては、従来の枠組みが持つ「窮屈さ」が課題となることが少なくありません。甲田氏は、上空から全体を俯瞰する「鳥の目」と、個人の生活実感に基づく「虫の目」という二つの視点を用いて、コミュニティの本質について言及しました。

鳥の目で見た全体のコミュニティは整って見えても、個人の虫の目から見ると、旧来の集落やPTAのような強制的な参加などは、監視の目が存在する居心地の悪い空間になりがちです。ごみ拾いや地域行事への参加が義務化され、少しでも外れると疎外感を感じてしまうような構造では、現代の人々は離脱してしまいます。

甲田氏が提唱するのは、「葡萄の房(ふさ)」のように、気の合う3人程度が緩やかに繋がった状態が無数に存在する構造です。

甲田氏「個人的な虫の目から見たときは、気の合う3人くらいと繋がっている状態、何かあったときに頼り合える葡萄の房のような関係性が無数にある状態が理想です。これまで私たちは事業名を『コミュニティ創出事業』と呼んでいましたが、自分たちが本当に作りたいのは鳥の目のコミュニティなのかと社員で話し合いました。その結果、私たちが作りたいのは『繋がりとその先にある関係』だという結論に至り、現在は『繋がり創出事業』という名称に変えようと動いています」

この視点に対し、参加者からも深い共感の声が寄せられました。

山田「確かにコミュニティを論じるとき、いかにグループをガチッと固めて作るかという話になりがちですよね」

亀山氏「私があって、私たちがいて、それがコミュニティや社会になっていくという順番で再編し直さないと、あまりに窮屈すぎますよね。窮屈なコミュニティが多いからこそ人が離れて地方の人口が減っていくという側面がある中で、今の繋がり方を作る仕組みは非常に納得がいきます」

地域活性化の実践事例——箱根町と茨城県境町

AsMamaの手がける繋がり創出の取り組みは、全国各地の多様な地域で具体的な成果を上げています。

神奈川県箱根町での取り組み

年間約2,000万人の観光客が訪れる有名観光地である箱根町ですが、地域で生まれる子どもは年間約30人程度にとどまっており、将来的な学校の減少や過疎化が深刻な懸念となっています。また、観光業に従事する保護者が多いため、土日祝日に子どもが家で一人で過ごす機会が多くなるという課題もありました。

そこでAsMamaは、手の空いている地域の大人が子どもたちを見守り、地域の魅力や文化を伝える場を構築しました。部屋を借りて数時間単位で子どもたちを集め、学習支援だけでなく、喫茶店体験や駄菓子屋での買い物体験といった職業体験の機会を提供しています。子どもたちが地域の大人や事業と触れ合うことで地域への愛着が育まれ、将来的に進学や就職で一度外へ出たとしても戻って来たくなるような環境づくりが進められています。

茨城県境町での取り組み

「日本一移住したい田舎町」として知られる茨城県境町では、25年間居住すると町営住宅が譲渡される施策や、質の高い英語教育など、積極的な移住定住施策が行われています。しかし、外部から移住してきた人々が地域に馴染めず孤立してしまうケースも存在します。

AsMamaは境町において、移住者同士が繋がる専用のグループをアプリ内に開設しました。移住者同士で子どもの預かり合いや物の貸し借り、送迎のサポートを行える体制を整えることで、新しく移住してきた世帯が孤立せず、地域に定着できる安心安全な環境を提供しています。さらに、先進的に導入されている自動運転バスの試乗イベントを地域の事業者とコラボして開催するなど、行政施策と住民コミュニティをなめらかに繋ぐ役割を果たしています。

地域活性化の実践事例について話す甲田氏

ローカルなアプリ「マイコミュ」とギブの設計

デジタル面でのインフラとして機能しているのが、AsMamaが独自開発・運営するローカルアプリ「マイコミュ」です。

「マイコミュ」は、行政の境界線や大まかな地域単位ではなく、極めて限定されたエリアや属性ごとのグループで運用されます。例えば「2026年生まれのパパママグループ」や「ゴルフ好きグループ」といったテーマごとに小規模なコミュニティを形成し、安全性の高い情報共有と頼り合いを実現しています。

安全性と信頼性を担保する仕組み

子どもの預かり合いや車の送り迎えなど、生活に密着した頼り合いを行うため、アプリでは電話番号認証などを通じた「顔見知りの知人同士」でのみマッチングが行われる仕様となっています。知らない人同士で大切な子どもを預けるリスクを排除し、心理的安全性を徹底して確保しています。

息を吸って吐くように誰かの役に立つ循環(トークンエコノミー)

アプリ内では、地域に役立つ情報発信(「道路が工事で通れない」「お店が閉まっている」等の超ローカル情報)や物品の譲り合いを行うことでトークンが付与されます。

貯まったトークンを使用すると、地域の事業者が協賛・提供する地元の特産品や宿泊券などが当たる定期的な抽選会に参加することができます。これにより、住民は「誰かの役に立った」という実感と報酬を得ることができ、同時に地元の魅力的な企業や商品を知り好きになるという、地域経済の好循環が生まれています。

甲田氏「息を吸って吐くように誰かの役に立ったら、それが自分にとっても良い報酬になるという好循環を、デジタルを使って実現しています」

現場で活動する「シェアコンシェルジュ」の参加動機について、甲田氏は「自分の得意なスキル(リトミックや読み聞かせ等)を広げたい自己実現型」「地域の人口減少を食い止めたい社会貢献型」「ポイ活やお得な特典を楽しみたいインセンティブ型」の3つの要素が存在すると分析しています。特に、単なる金銭的インセンティブ以上に「誰かから感謝されること」や「役に立ったという手応え」が継続的な活動の大きな原動力となっています。

アプリ「マイコミュ」について話す甲田氏

単年度事業の限界と5年軸で挑むソーシャルビジネスの覚悟

行政や企業の予算構造において、地域活性化やコミュニティ形成事業は単年度(1年単位)の予算で計画されることが多くあります。しかし、甲田氏は自社の実体験から、単年度事業が地域に与える弊害について強く警鐘を鳴らします。

かつてAsMamaも、行政等の補助金や助成金を活用した単年度の試行事業を10個ほど実施した経験がありました。単年度事業では、プロポーザルが採択され契約が締結するのが夏前となり、翌年2月には事業を終了して報告書を作成しなければなりません。

甲田氏「地域に行って『みんなで課題を解決しよう』と自治会長さんや商工会議所さん、農協さんを巻き込んで、美味しいお酒を飲んで意気投合した頃に事業が終わってしまうんです。次年度の予算がないからここで終わりとなると、地域の人からは『あの会社は一体何だったんだ』ということになってしまいます。繋がり作りを一度提案されると地域の方は信じます。新入社員を半年育てて2ヶ月放置したらまた新入社員に戻ってしまうのと同じで、繋がりも中断すれば元に戻ってしまうのです」

この苦痛と失敗の経験を経て、AsMamaは経営方針を大きく転換しました。単発のイベント案件や単年度限りの提案は原則として断り、「最低でも5年間は継続して地域と向き合う」案件のみを受ける体制へと舵を切ったのです。

初期の1〜2年間は、社員を現場に手厚く投入し、赤字覚悟で「シェアコンシェルジュ」の育成と基盤構築を徹底して行います。現場の信頼を獲得し、持続可能な連絡網と相互扶助の仕組みを完全に定着させることで、3年目以降に地域住民自身が自走できる体制を作り上げています。

亀山氏「ソーシャルビジネスや地域の仕事において、3年や5年の軸で見せないと成果が出ないというのは本当におっしゃる通りですね。最初に一歩踏み込んで信頼関係を築くプロセスを恐れずにやり切ることが極めて重要だと実感します」

Asmama甲田氏

人的資本経営と企業向けコミュニティへの展開

これまで地域や商業施設を中心に行ってきた共助コミュニティの仕組みは、現在、多くの企業が抱える「人的資本経営」の課題解決に向けて急速に横展開が進んでいます。

近年、少子高齢化に伴う労働力不足の中で、育児や介護と仕事の両立、従業員のエンゲージメント向上、離職防止が企業の至上命令となっています。AsMamaは、企業内の従業員同士が子育てや暮らしの困りごとを斜めの関係で相談し助け合える、企業向けライセンス型(SaaS型)サービスの提供を開始しています。

職場での助け合いがもたらす変化

社内アプリなどを通じて、「使わなくなったチャイルドシートやベビーベッドの譲り合い」「子ども用スキー板の貸し借り」などを行うことで、部署や役職を超えたコミュニケーションが発生します。

甲田氏「『チャイルドシートや子ども服が余っていませんか?』という貸し借りを行っているうちに、従業員同士が仲良くなり、会社に対する愛着やチーム力がアップしていきます。さらに、子育てをしている当事者だけでなく、若い世代が子どものお世話を疑似体験したり、子育てを終えた管理職世代が育児中の部下の状況を理解するきっかけになります。『帰宅したらこんなに大変だったのか』と相互理解が進むことで、職場環境が大幅に改善されます」

自治体単位での導入には合意形成や予算確保に時間がかかる場合がありますが、企業単位での導入であれば人事部門のリーダーシップのもとで迅速かつ低コストで全社展開が可能です。従業員のライフイベントによる離職を防ぎ、相互に支え合い働き続けられる組織づくりを実現する強力なツールとして、企業の経営者や人事担当者から高い注目を集めています。

「防災」をコストからバリューへ—— 防災チャンピオンシップと日常の「共助」が防災力を高める理由

地域のコミュニティ形成や助け合いの仕組みは、緊急時における「防災」の観点からも決定的な役割を果たします。

山田は「ピクトレ防災チャンピオンシップ2026」において、防災の第一人者である東京大学の目黒教授からの学びとして、「防災はコストではなくバリューにするんだ」という視点を提示しました。

高校野球が100年の歴史を持ち、毎年多くの人々を動かし大きな経済効果を生み出しているように、全国1,741自治体が競い合いながら盛り上がる「防災チャンピオンシップ」としてエンタメ・ゲーム要素を取り入れることで、防災を楽しく持続可能な活動へと転換させる試みです。

山田「防災活動をしながら地域や経済を活性化させないと、長続きもしないし盛り上がりません。だからこそ競い合い、盛り上がる仕組みが必要です」

甲田氏「巨大地震や大規模災害への備えだけが防災ではありません。『電車の運休で子どものお迎えに行けない』『自分がお酒を飲んでしまい発熱した家族を病院に送れない』といった事態は、日常における『小災害』です。日常の小災害で助け合えない地域やコミュニティが、大規模な災害が起きたときに突然助け合えるはずがありません。普段から子どもの預かり合いやお年寄りの送迎を行っているコミュニティがあって初めて、大災害のときにも迅速に対応できるのです」

災害発生時における支援は「公助(行政や自衛隊による支援)」「自助(自分自身での備え)」「共助(地域や住民同士の助け合い)」に分類されますが、研究やデータにおいても、復旧のスピードや被災者のメンタルヘルスの面で最も大きな効果を発揮するのは「共助」であることが明らかになっています。

日常の小さな助け合いや遊びの文脈を通じて構築された人間関係こそが、有事における最強の防災インフラとなります。

防災事業コンテスト最終選出について話す山田

さいごに

今回のミートアップでは、株式会社AsMamaの甲田恵子氏をお迎えし、義務感ではなく自発的なエンタメ性とデジタル技術を融合させた「共助コミュニティ」の可能性についてお聞きしました。日常の小さな助け合いを重ねることが、地域課題の解決や企業の人的資本経営、そして地域における強い防災力の構築につながります。

※当日の様子はこちらの動画をご覧ください

■関連リンク

DEA LABO 公式サイト|https://dealabo.jp/

DEA LABOでは、今後リアルイベント開催以外にも記事コンテンツなどで随時、関連情報を発信してまいります。また、リアルイベントは今後も定期的に開催する予定です。Peatixや公式サイトなどで周知してまいりますので、ご確認いただければ幸いです。

DEA 公式YouTube|https://www.youtube.com/@dea_official_jp

DEAの取り組みや最新情報に加え、実証・実装組織「DEAラボ」の活動、対談企画、イベントの様子などをお届けします。