法定雇用率2.7%の壁を越える!テレワークと生成AIで障がい者雇用を「義務」から「戦力」へ転換する新しいアプローチ

2026年7月30日に開催された 「第7回 DEA LABO Meetup」のレポート記事です 。「法定雇用率2.7%の壁を突破する」を題材に 、参加者同士の共創や室岡裕介氏らのセッションの様子をお届けします。エンターテイメントを活用した社会課題解決の最前線をご覧ください。
2026年7月、障がい者の法定雇用率が2.7%へと引き上げられました。企業の経営層や人事担当者にとって、この制度変更は極めて大きな影響をもたらしています。単に法律を守るための「義務」として数字を追いかけるのか、それとも多様な人材がそれぞれの強みを発揮して組織の成長を支える「文化」へと高めていくのか。今、まさに企業としての姿勢が問われています。
今回は、一般社団法人日本テレワーク協会の室岡氏をお迎えし、長年障がい者雇用と向き合ってきた現場のリアリティや、テレワーク・生成AIといったテクノロジーを組み合わせることで生まれる新たな可能性について語り合いました。社会課題を悲観的に捉えるのではなく、ワクワクする仕組みへと捉え直すDEA LABOの思想に基づき、具体的な実装と未来へのビジョンを詳しくお届けします。
法定雇用率2.7%への引き上げ——企業が直面する現実と課題
2026年7月の法改正に伴い、一般企業の障がい者法定雇用率は2.7%へと引き上げられました。1人雇用を追加することの難しさは、現場の担当者ほど痛感しています。
山田:「本日は、障がい者雇用の領域に深く関わってこられた室岡さんをお迎えしてお話を伺います。今月7月から法定雇用率が変更されましたね」
亀山氏:「法定雇用率が上がったというお話を聞きました。世間の変化と課題感について、室岡さんの人となりを含めて掘り下げていきたいと思います」
室岡氏:「制度としての障がい者雇用率は1976年に誕生し、当時は1.5%から始まりました。近年、急激に数値が引き上げられており、今年はまさに2.7%という数字になります。これは企業にとって非常に影響が大きいものです。特にゼロから1人を採用するハードルがものすごく高いのが現状です」
【障がい者法定雇用率の推移と現状の課題】
・1976年:制度開始(1.5%)
・2018年:精神障がい者が雇用率のカウント対象に追加
・2026年7月:2.7%へ引き上げ
・課題:達成企業は全体の半分未満(約48%)。特に中小企業でのノウハウ不足と採用難が深刻。
現在、法定雇用率を達成している企業は全体の約48%にとどまっています。数値が上がるたびに達成率は一時的に下がり、なかなか5割の壁を越えられない状態が続いています。
未達成の企業には年間1人あたり60万円の納付金義務が生じるほか、一定以上の規模の企業では社名公表のリスクも存在します。しかし、公表を避けるためだけの「ネガティブなアクション」として採用を進める構造には、多くの限界が露呈しています。
「一緒に働くことに壁はない」——室岡氏の原体験と現場での実践
室岡氏は自身の人生において、障がいを持つ方々と関わる大きな機会が4回あったと振り返ります。
室岡氏:「私が障がいをお持ちの方とご一緒するようになったきっかけは、小学校時代です。生まれ育った東京都府中市の小学校には、当時としては珍しく『なかよし学級』と呼ばれる特別支援学級が併設されていました。重度の障がいがある方以外は、通常学級と行き来するスタイルをとっていたため、私のクラスにも常に1人か2人は一緒にいました。給食も遊ぶ時も修学旅行も一緒でした。身内に障がい者がいたわけではありませんが、当たり前のように一緒に過ごす環境があったことが、自分の原点になっています」
大学時代に労務管理を研究していた室岡氏は、2002年の雇用率1.8%引き上げのタイミングで障がい者雇用を卒論のテーマに選びました。特例子会社や関係機関を訪問して調査を重ねる中で、「工夫さえすれば一緒に働くことに壁はない」という確信を得たと言います。
大学卒業後、鉄道会社に入社した室岡氏は、新卒ながら知的障がい者に特化した特例子会社の設立業務に携わりました。
室岡氏:「鉄道会社は安全義務を背負っているため、駅での接客業務を障がいのある方にお願いすることは簡単ではありませんでした。そこで、バックヤードや駅の清掃をお願いする仕組みを作りました。近隣の特別支援学校から採用し、午後は公文式の教材を解く時間を作って、職業訓練と学習をセットで実施しました。安全な動線を一つひとつ整理することで、知的障がいの方と一緒に働く環境は作れるのだと知りました」
その後、保険会社に転職した際も、社員向けのマッサージルームで従事いただくヘルスキーパー(視覚障がいのあるあん摩マッサージ指圧師)の採用に携わりました。
室岡氏:「資格を持った方々は、1回か2回動線を案内すればすべてを覚えます。過度な配慮をすることのほうが、かえって彼らにとってストレスになる場合もあります。必要な配慮は聞きますが、働く環境や内容で極端な差をつけるべきではありません。能力と適性を見て、一人の社員・戦力としてお迎えする視点が何より大切だと実感しました」

なぜ中小企業で障がい者雇用が進まないのか?構造的歪みと解決への視点
障がい者雇用を進める上で、多くの企業が抱える構造的な悩みがあります。特に従業員50名〜300名規模の中小企業においては、人事担当者が1名〜2名しかおらず、障がい者採用や定着支援のノウハウが決定的に不足しています。
室岡氏:「50人程度の企業で1人の障がい者を採用するのは、実務上とても大変です。専門の人材紹介会社を利用しようとしても、大手企業のように高い報酬条件を出せない中小企業には母集団が集まりにくい現実があります。結果として『年間60万円の納付金を払ったほうが負担が少ない』という判断になりがちです」
また、数字の達成に追われるあまり、企業側が「カミングアウトしやすい内部障がいの方を探す」というような本質から外れた手段に頼ってしまう歪みも生じています。
室岡氏:「本来は多様な人材を組織に活かすための制度ですが、現状は数字のプレッシャーが強すぎて、採用のあり方が硬直化しています。特例子会社という仕組みも、障がいのある方をまとめて雇用できるメリットがある一方で、本社の社員と業務上の接点が減り、『同じ企業の仲間として混ざり合う機会』が奪われてしまうという一面を持っています」
【障がい者雇用の現場における3つの重要ポイント】
1. 一人の社員として「戦力化」できるかどうかの視点を持つ
2. 過度な配慮で業務レベルを落とすのではなく、必要な配慮を見極める
3. 組織全体で受け入れる理解と、同じ仲間として関わる機会を作る
室岡氏:「海外、特にヨーロッパでは企業に対する過度な数値強制だけでなく、より壁のない社会づくりが進んでいます。日本も単に罰則で尻を叩くだけでなく、雇い入れたことで企業が成長したという成功事例を増やし、アメとムチのバランスやサポート制度を整えていく必要があります」
「義務」から「ビジネスの力」へ——社会課題をエンタメと遊びの文脈で捉え直す
DEA LABOでは、社会課題や福祉の文脈を単なる「義務」や「保護」として捉えるのではなく、ワクワクするエンターテインメントや価値創造の文脈へと転換することを目指しています。
亀山氏:「障がいを持つ方々との関わりにおいて、多様性を受け入れるインクルーシブという言葉だけでなく、楽しく付加価値を生み出していく『ファンクルージョン』という考え方が大切だと感じています。クリエイティブの現場でも、異なる視点や感性を持つ方々と一緒に働くことで、健常者側が大きなインスピレーションを受ける場面が多くあります」
亀山氏:「私の弟には聴覚障がいがありますが、子供の頃に弟が好んで観ていた海外の無声アニメーション作品の美しさが、今の自分の映像制作やビジュアル表現の原点になっています。言葉や音に頼らない感性から学んだものは非常に大きかったです。弟自身も現在は建築の分野で大いに活躍しており、個性が生きる場所があれば人は大きな力を発揮できます」
室岡氏:「福祉や社会貢献という文脈だけで障がい者雇用を語り続けると、低賃金の作業所に頼る構造から抜け出せません。障がいのある方が自分の力で稼ぎ、経済的に自立していく。そして企業側も『社会貢献のために雇っている』のではなく『事業の戦力として助かっている』と言えるビジネスサイクルを作ることが、双方にとって最も健全な姿です」
障がいを「制限」として捉えるのではなく、「世界に対する特有の接し方や才能」として捉え直すことで、ビジネスにおける新しい価値が生まれます。

生成AI×障がい者雇用=企業の成長力「はたらくホーム」が提示する新しい選択肢
現在、障がい者雇用の中で最も急増しているのが精神障がいをお持ちの方々です。一方で、身体障がいや知的障がいに比べて就職後の定着支援や適職のマッチングが難しく、企業側もどう対応すべきか手探りの状態が続いています。
この課題に対して、DEA社が提案しているのが、リモートワークと生成AI(AX=AIトランスフォーメーション)を組み合わせた障がい者就労支援サービス「はたらくホーム」です。
【精神障がい者の雇用における課題と「はたらくホーム」の解決アプローチ】
・課題:病歴や体調の波により、従来のオフィス出社型・固定業務での就労が難しい。
・課題:企業側が「どんな仕事を頼めばいいか分からない」という切り出しの負荷を抱える。
・解決策:在宅・リモート環境で、生成AIを活用した業務(リサーチ、テキスト化、データ整理)を担当。
・効果:企業の「AIアダプション」を後押しし、障がい者自身も高度な戦力として貢献。
山田:「AIが普及すると『単純作業が奪われて障がい者の仕事が減るのではないか』と懸念されることがあります。しかし現実は逆で、生成AIを社内に定着させるためには、非常に泥臭いメンテナンスやデータ整理のプロセスが必要です」
山田:「生成AIをビジネスで高度に使いこなすためには、写真やPDFのまま読ませるのではなく、事前にテキスト化して情報を整理したり、プロンプトの指示文を丁寧に整えたりする泥臭い作業が不可欠です。しかし、忙しい社員にはその作業を行う時間がありません。ここをリモート環境下で集中して対応してくれる存在がいれば、会社全体のAIリテラシーと活用スピードは飛躍的に向上します」
一般的に「AIの導入」といえばツールの選定ばかりが注目されますが、最も重要なのは「誰がそのツールを日常業務のフローに組み込むか」という運用の泥臭さにあります。
障がいを持つ方々が生成AIのオペレーションや前処理をサポートすることで、企業にとっては「喉から手が出るほど欲しいAI推進力」が得られ、働く側にとっても「高度な業務を支える達成感」と「市場価値」を得ることができます。
室岡氏:「従来の障がい者雇用では、名刺の印刷などといった業務が中心でしたが、ペーパーレス化に伴ってそれらの仕事は減っています。だからこそ、AIを活用する側のスキルを身につけ、企業のコア業務を支えるパートナーになっていくという切り口は非常に画期的です」

ゲームとリモートワークで個性を可視化する——誰もが活躍できる未来の仕組み
「はたらくホーム」では、単に業務を割り振るだけでなく、ゲーミフィケーションの要素を取り入れた管理ツール「V-DASH」を活用しています。研修やクエスト(実務形式の課題)を通じて、働く人の特性や得意分野を可視化する仕組みです。
【ゲーミフィケーションを活用した「V-DASH」の仕組み】
1. 個性のあぶり出し:研修やクエストの実施傾向から、集中力、正確性、テキストコミュニケーション能力などの適正を可視化。
2. 業務切り出しの負担軽減:リサーチやデータ処理など100種類の定型ワークを「クエストカタログ」から選ぶだけで業務の依頼が可能。
3. リモートでの定着支援:環境の変化に敏感な精神障がいの方でも、自宅から安心して段階的に業務に参加できる。
一見すると意味がないようにも思えるデータの積み重ねから、『この人はデータのチェックが極めて正確だ』『この人は文章の要約能力が高い』といった個々の能力があぶり出され、適切な業務へマッチングされる仕組みです。
会場の参加者からも、この取り組みに対して大きな反響がありました。
参加者女性:「私は長年、発達支援や精神保健の現場に関わってきました。精神障がいや発達障がいのある方々は、一人ひとりが非常に尖った素晴らしい能力を持っています。しかし、従来の学校や企業では環境調整が難しく、才能が生かされないまま孤立してしまうケースが多々ありました。特に大学の学生相談室などには、高い能力を持ちながら社会との接点を見出せずに悩んでいる若い方がたくさんいます。こうしたリモートとAIを活用した仕組みは、そうした方々の未来をひらく大きな光になると感じます」
参加者男性:「弊社では特例子会社を作らず、すべての部署で障がいを持つ仲間が正社員として共に働いています。重要なのは『配慮が必要な特性』を正しく理解しつつ、業務上は一人のプロフェッショナルとして尊重し合える関係性をつくることです」
障がいを抱える当事者、支援する家族、そして雇用する企業。テクノロジーと遊び心を持ってつながることで、雇用率は単なる「達成すべき数字」から「組織を豊かにする指標」へと変わっていきます。

さいごに
今回のイベントを通じて見えてきたのは、法定雇用率2.7%という高い壁も、捉え方とテクノロジー次第で「組織を変革する大きなチャンス」になるということです。テレワークによる柔軟な働き方と、生成AIによる新しい業務創出、そしてそれらを楽しく繋ぐゲーミフィケーション。DEA LABOでは、これからも社会課題を楽しく解決する実践的なアプローチを発信してまいります。
※当日の様子はこちらの動画をご覧ください。
■関連リンク
DEA LABO 公式サイト|https://dealabo.jp/
DEA LABOでは、今後リアルイベント開催以外にも記事コンテンツなどで随時、関連情報を発信してまいります。また、リアルイベントは今後も定期的に開催する予定としており、Peatixや各SNSなどで周知してまいりますので、その際には詳細をご確認いただければ幸いです。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
DEA 公式YouTube|https://www.youtube.com/@dea_official_jp
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