防災の最大課題は、技術不足ではなく「参加されないこと」

2026年現在、防災DXは国を挙げた重点施策となり、デジタル技術の整備は急速に進んでいます。

しかし、どれだけ優れたシステムを導入しても、肝心の市民が動かなければ防災力は向上しません。

「防災訓練は大事だと思う。でも参加したことはない」

多くの自治体担当者や企業のCSR・事業開発担当者が、いままさにこの構造的な壁に直面しているのではないでしょうか。

2024年の全国調査では、防災訓練にほぼ毎回参加している人はわずか4.4%

約65%が「一度も参加したことがない」と回答しています。

問われているのは「どの防災テクノロジーを導入するか」ではなく、「市民が動く防災をどう設計するか」です。

本記事では、調査データと先進事例を交えながら、防災における「参加設計」の課題と、ゲーミフィケーションによる解決の可能性を整理します。

防災の最大課題は「技術不足」ではなく「参加されないこと」

防災対策のボトルネックは、テクノロジーでもインフラでもなく、「市民が参加しないこと」にあります。

詳細な理由は後にお伝えしますが、大きくわけて理由は3つあります。

① 認知の壁:そもそも訓練があることを知らない
② 動機の壁:知っていても「面倒」「関心がない」
③ 継続の壁:参加しても成果が実感できない

こくみん共済が2024年に実施した全国47都道府県の意識調査によると、自宅近隣の防災訓練に「ほぼ毎回参加する」と回答した人は、全体のわずか4.4%でした。
(参考:こくみん共済

「一度も参加したことがない」は64.5%にのぼり、賃貸マンション居住者に限ると77.2%に達しています。

日本トレンドリサーチの調査記事でも、防災訓練の未参加率は73.6%という結果が報告されております。
(参考:PRTIMES

しかし、参加しない人のうち82.2%が「地域で防災訓練を実施していることを知らない」と回答しています。

大阪府堺市では、南海トラフ巨大地震の発生時に最大震度6弱・津波高4.9mが想定されているにもかかわらず、津波避難訓練への参加率は避難対象者全体のわずか3〜4%にとどまっていました。
(参考:堺市

さらに被災地を対象とした調査では、防災意識が「薄れている」と感じる人が約8割を占め、防災訓練やイベントの活性化を求める声が最も多い結果となっています。

注目すべきは、防災の「必要性」自体は広く認識されている点です。

日頃から備えることが大切だと9割以上が回答する一方で、実際に行動に移している人は少数。

この「意識と行動のギャップ」こそが、防災における最も根深い課題です。

どれだけ優れた防災テクノロジーを導入しても、市民が参加しなければ防災力は向上しません。この構造的な壁を越えなければ、防災DXの効果は限定的なものにとどまります。

では、なぜこの「参加の壁」は生まれるのでしょうか。防災DXの全体像を踏まえて整理していきます。

防災DXの現在地 ― 国が動き出した「官民共創」の全体像

防災DXの基盤整備は、国を挙げて急速に進んでいます。

2022年にはデジタル庁が中心となり「防災DX官民共創協議会」が設立されました。

事業者や地方自治体など295以上の団体が参加し、官民連携による防災DXの推進が進められています。

デジタル庁が策定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、防災分野が重点的な取り組みの一つに位置づけられています。
(参考:デジタル庁

各防災情報システムを自動で集約・共有できる「防災デジタルプラットフォーム」の構築が目標とされ、2026年度からはデータ連携基盤の本格運用が始まります。

自治体業務全体が「縦割り」から「横連携」を前提とした構造へ移行する中で、防災分野もこの流れに組み込まれています。

また「防災DXサービスマップ」が公開され、災害対応を「平時」「切迫時」「応急対応」「復旧・復興」の4つのフェーズに分類
(参考:防災DXサービスマップ事務局

それぞれの局面で有用な民間サービスが一覧化されています。

国土交通省の3D都市モデル「PLATEAU(プラトー)」や、マイナンバーカードを活用した被災者支援なども並行して整備が進んでいます。

一方で、現場には深刻な課題が横たわっています。

少子高齢化に伴う自治体の人手不足、限られた財政での防災予算確保の難しさ、そしてVRやIoTなど新しい技術を運用できる専門人材の不足。

こうした現実の中で、「住民の行動を変える」ための施策は、依然として手薄なままです。

国の仕組みは整いつつあります。

しかし、住民の行動そのものを設計し直す視点は、まだ十分に語られていません。

防災の参加設計を変える切り口:「ゲーム」

防災訓練が「参加されない」3つの構造的理由

内閣府の「防災に関する世論調査」や民間調査の結果を総合すると、防災訓練が参加されない構造には3つの壁が存在します。

① 認知の壁:そもそも訓練があることを知らない

防災訓練に参加しない人のうち、「訓練があることを知らなかった」と回答した割合は50〜82%にのぼります。

市区町村の広報誌だけでは、特に若年層や単身世帯への周知が行き届いていません。

② 動機の壁:知っていても「面倒」「関心がない」

訓練の存在を知っている層でも、「仕事や他の用事があった」「参加したいと思わなかった」という回答が目立ちます。

従来型の訓練は「義務感」で参加するものになっており、能動的に参加したくなる設計がなされていません。

③ 継続の壁:参加しても成果が実感できない

一度参加しても「何が身についたのか分からない」「次回も参加しよう」とはならない。

防災意識が「薄れている」と約8割が回答している現実は、一過性の訓練が行動変容につながっていないことを示しています。

ゲーミフィケーションが解く3つの壁

ゲーミフィケーションとは、ゲームのメカニズム(競争、報酬、達成感、物語性など)をゲーム以外の領域に応用する手法です。

防災の文脈では、この3つの壁それぞれに対して構造的な解を提供します。

① 認知の壁を解くのは「拡散力」です。 ゲームは本質的にSNSとの親和性が高く、参加者自身がプレイ体験を共有することで、行政の広報だけでは届かない層にリーチできます。

口コミやランキング共有が自然な認知拡大を生みます。

② 動機の壁を解くのは「内発的動機」と「外発的動機」の組み合わせです。 楽しさ、好奇心、競争心、達成感といった内発的動機に加え、リワード(報酬)やランキングといった外発的動機を設計することで、「参加しなければならない」から「参加したくなる」へ構造を転換できます。

③ 継続の壁を解くのは「可視化」と「コミュニティ」です。 進捗の可視化、レベルアップ、チーム間の競争、定期的なイベントシーズンといった仕組みは、一過性で終わらない継続的な参加を促します。

先進事例が示すエビデンス

このアプローチは、すでに国内の複数の現場で成果を上げています。

事例①大阪府堺市「面白いから参加する」津波避難訓練

参加率わずか3〜4%だった津波避難訓練を、ゲーム感覚で楽しめるプログラムに刷新。

住民や地元事業所と協力し、競争要素や達成感を組み込んだ4つのプログラムを実施することで、参加の質と量の両面で改善が見られました。

事例②姫路市発「まもりんピック」(総務大臣賞受賞) → 東京・大田区等へ展開

2008年に姫路市消防局が考案した防災運動会で、災害を想定した競技やゲームを通じて防災技術を楽しく学ぶ仕組みです。

バケツリレー、担架搬送競争、大声コンテストなど運動会形式に再設計することで約2,500名が参加。

この取り組みは全国に広がり、東京都大田区蒲田東地区では「まもりんピック蒲田東」として第7回(2024年)まで継続開催され、海外出身者や幅広い世代の参加を実現しています。

事例③順天堂大学の学術研究

ゲーミフィケーションを活用した防災教育プログラムの効果を検証した研究では、課題解決ゲームの実施後に「発見」「楽しみ」「興味」の得点が有意に向上し、42.2%の参加者に災害に関する意見形成の変容が見られたと報告されています。
(参考:科学コミュニケーションとゲーミフィケーションを活用した防災教育の実践

事例④福岡工業大学「防災GO」

位置情報データと地域の防災情報を組み合わせたアプリで、クイズ形式による好奇心の刺激、浸水シミュレーションによる疑似体験。

ランキングによる競争欲求の活用を通じて、能動的な避難行動の学習を促進しました。

これらの事例が示しているのは、防災の「中身」を変えるのではなく「参加の構造」を変えるだけで、市民の行動が変わるという事実です。

では、こうした個別事例の可能性を、社会システムとしてスケールさせるには何が必要でしょうか。

事業開発視点で見る「防災×ゲーミフィケーション」の市場構造

事業開発の観点から防災×ゲーミフィケーション領域を見ると、4つの構造的な追い風が存在します。

1. 国の政策投資が加速している

デジタル庁の重点計画や「デジ田交付金(デジタル田園都市国家構想交付金)」を通じて、防災DX関連の予算が拡大しています。

自治体が防災のデジタル化に投資しやすい環境が、制度面から整いつつあります。

2. 企業のBCP・CSR投資と防災が結びつき始めている

能登半島地震を契機に、企業のBCP(事業継続計画)や地域貢献活動として防災領域への関心が高まっています。

三井住友海上のように、損害保険会社が市民参加型の防災ソリューションに着目し始めている動きは、この領域に本格的な事業機会が生まれつつあることを示しています。

3. 「フェーズフリー」という考え方が浸透し始めている

フェーズフリーとは、平時のサービスがそのまま災害時にも活きる設計思想です。

防災のためだけに存在するツールは持続しにくい。

しかし、平時は「街歩きのゲーム」として楽しめ、同時に地域のインフラ情報や防災知識が蓄積される仕組みであれば、日常と有事のシームレスな接続が可能になります。

4. 領域横断型のモデルが成立し始めている

インフラ点検×防災×観光×地域活性化。

これまでは別々の予算、別々の部署で扱われていた課題が、ゲーミフィケーションという共通の参加設計によって一つのプラットフォームに統合できる可能性が見えてきました。

第1弾記事「AIアダプション」で整理したように、技術は「導入する時代」から「前提に事業を再設計する時代」へと移行しています。

あわせて読む

▶▶【ラボ インサイト】事業開発担当者のための「AIアダプション」とは?インターネット普及と同じ構造で進むAI活用の今

防災もまったく同じ構造です。

問われているのは「どの防災ツールを使うか」ではなく、「市民が動く前提で防災をどう設計し直すか」です。

このような構造的な変化の中で、DEAラボが提唱する「Public Play Design」はどう位置づけられるのでしょうか。

「Public Play Design」で防災を再設計する

DEAラボが掲げる「Public Play Design」とは、既存の活動に単にゲーム要素を付与するのでは有りません。

「社会システムそのものを、人々が夢中になってプレイ可能な構造に設計し直す」というアプローチです。

この考え方を防災に適用すると、従来型の防災対策とは根本的に異なる設計が見えてきます。

従来型の防災対策は「正しいことを伝え、参加を促す」ものでした。

広報誌で周知し、日時を決めて訓練を実施し、参加者に知識を伝達する。

これは「正しい設計」ですが「参加したくなる設計」ではありません。

Public Play Designによる防災は「楽しいから参加し、結果として防災力が高まる」構造を目指します。

ゲームとしての面白さが先にあり、プレイの結果として防災知識が身につき、地域の安全が向上する。この順序の逆転こそが、参加率4%の壁を突破する鍵です。

ピクトレが証明した「市民参加型」モデル

DEAが東京電力との共同事業として開発した市民参加型ゲーム「PicTrée(ピクトレ)」は、まさにこのPublic Play Designの実践例です。

ピクトレは、プレイヤーが街中の電柱やインフラ設備をスマートフォンで撮影し、陣取り合戦として競うゲームです。

2024年4月のサービス開始以降、電力・通信という社会インフラの垣根を超えた市民参加型の保全モデルが構築されつつあります。

さらに、三井住友海上とは「参加型社会貢献コンテンツを活用したリスク予防・被害軽減の仕組みづくり」をテーマとするMOU(基本合意書)を締結。

保険会社という防災と密接に関わる業界からの評価は、このモデルの事業性と公共性の両立を裏付けています。

インフラ点検から「防災」への自然な拡張

ピクトレで証明されたのは、「市民がゲームとして楽しみながら、社会インフラの保全に参加する」というモデルが現実に成立するという事実です。

このモデルは防災領域への拡張と高い親和性を持っています。

街を歩き、地域のインフラや地形を観察するという行為そのものが、防災の原点である「地域を知ること」と重なるからです。

ハザードマップの確認、避難経路の把握、危険箇所の認識。

これらは机上の学習よりも、実際に街を歩くことで格段に深く身につきます。

DEAラボでは現在、ピクトレの技術基盤とPublic Play Designの設計思想を活かした、防災領域での新たな展開を準備しています。

市民が「楽しいから参加し、気づいたら防災力が上がっている」。

そんな仕組みの社会実装に向けて、パートナー企業や自治体との連携を本格化させていく予定です。

AIアダプションとの接続:データが防災の「質」を変える

第1弾記事で取り上げた「AIアダプション」と、本記事で整理した「防災の参加設計」は、実は深くつながっています。

あわせて読む

▶▶【ラボ インサイト】事業開発担当者のための「AIアダプション」とは?インターネット普及と同じ構造で進むAI活用の今

AIが防災領域で真価を発揮するためには、人間が実際に街を歩き、観察し、判断した「人間由来のデータ」が不可欠です。

避難経路の実態、インフラ設備の現状、地域ごとの固有リスク。

これらのデータは、市民参加によって初めて大量かつ高品質に集まります。

DEA社が構想する「DEPプロトコル」は、こうした市民由来のデータを信頼できる形で生成・証明・流通させるためのブロックチェーン基盤です。

市民参加型ゲームで収集されたデータが、AIによる防災判断の基盤となり、それがさらに精度の高い防災設計にフィードバックされる。

この循環こそが、次世代の防災DXの核心になると考えています。

まとめ

防災の課題は、技術の不足ではなく「参加されないこと」にあります。

そして「参加されない」のは、市民の意識が低いからではなく、「参加したくなる設計がない」からです。

本記事で整理したポイントを振り返ります。

・防災訓練の参加率はわずか4.4%。必要性は9割が認識しているのに、行動に移らない構造的ギャップが存在する。

・防災DXの基盤整備は国を挙げて進んでいるが、「住民の行動を変える設計」はまだ手薄。

・ゲーミフィケーションは、認知・動機・継続の3つの壁に対して構造的な解を提供する手法であり、国内でもエビデンスが蓄積されつつある。

・防災×ゲーミフィケーション領域には、政策投資の加速、企業のBCP/CSR投資、フェーズフリーの浸透、領域横断モデルの成立という4つの追い風がある。

・DEAラボが掲げる「Public Play Design」は、防災を「正しいから参加すべきもの」から「楽しいから参加するもの」へ再設計するアプローチであり、PicTrée(ピクトレ)で実証された市民参加型モデルの防災領域への展開を進めている。

第1弾の「AIアダプション」と同様に、防災においても「ツールの導入」から「仕組みの再設計」へ、フェーズは確実に移っています。

「どの防災ツールを使うか」ではなく「市民が動く防災をどう設計するか」。

この問いに向き合うことが、これからの防災における最大の競争力になるはずです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


DEAラボでは毎月リアルイベントを開催中!

次回のテーマは「防災」。是非イベントサイトをチェックしてみてください。

https://peatix.com/event/4925346