DEA山田・SIGNING亀山氏・株式会社C-COS地村氏・災害モンスター研究所 石橋氏

「社会のルールに遊びの要素を取り入れ、社会そのものをプレイ可能にする」というパブリックプレイデザインの思想。
今回のミートアップでは「防災」をテーマに、簡易トイレのイノベーターである地村健太郎氏と、エンタメ防災を推進する石橋健次氏を招き、防災無関心層の意識向上への戦略やゲーム性の活用について語り合いました。

災害時におけるトイレ問題の深刻さと、それを解決するためのプロダクトデザイン。また、恐怖ではなく「楽しさ」を入り口に防災意識をアップデートするゲーミフィケーションの可能性。「やらなければならないこと」を「やりたくてたまらないこと」へと変換する、プレイデザインの最前線をレポートします。

01. 災害関連死を防ぐ簡易トイレ「BENKING」の設計と普及

〜トイレ不足が引き起こす「命の危機」をハードから解決する〜

株式会社C-SOSの地村健太郎氏は、自らの体験を機に、災害時のトイレ不足が引き起こす「災害関連死」の防止に取り組んでいます。

もともと東京都出身の地村氏が長野への移住を決めたのは、過労とストレスによる急性心筋梗塞で約1.5時間もの心肺停止状態を経て、奇跡的に後遺症もなく生還したことがきっかけ。「東京にいたらまた倒れるかもしれない」という思いでスローライフを求めて長野へ移り住んだ先で、「災害時にトイレが不足することが原因で失われている命がある」という現実に出会い、簡易トイレの研究・開発に踏み込みました。

山田:「心肺停止1.5時間からのノーダメージ復帰というのは、医師も前例がないほどの体験。その『生き返った』という原体験が、今の活動の根っこにあるんですよね。だからこそ、命を守るというテーマに対する熱量が違う。」

日本トイレ協会の調査(2023年)では、家庭での非常用トイレ備蓄率はわずか22.2%。東日本大震災前は19.0%ほどで、大災害が起きても3ポイントしか伸びていない現実があったといいます。そこには日本という世界最高水準の上下水道に恵まれた環境が、「トイレは扉を開ければある」という常識がマンネリ化し、かえって危機感を持てない思考になっていることが考えられます。ライフラインが停止してトイレが使えなくなると、人は排泄を我慢し、水分や食事を控えるようになります。食べることを控えれば栄養不足・免疫力低下によるO157やノロウイルスへの感染リスクが上がるほか、水分を飲まないことによる脱水と血流のドロドロ化とエコノミークラス症候群が重なって脳梗塞・心筋梗塞に至るケースも。これが「トイレ問題に起因する災害関連死」の経路の一因です。

地村:「トイレがないことで死ぬって、ちょっと切なすぎませんか。でも、これは現実に起きていることなんです。」

山田:「大規模なイベント会場と同じで、備えた人数に対してトイレが足りなくなる。でも普段の生活の中でそこまで想像する機会がない。だからこそ、知ってもらうための入り口設計が大事になりますよね。」

地村氏開発の簡易トイレ「BENKING」は、道路の土木資材や精密機械などの緩衝材にも用いられる高密度発泡スチロールを採用。そのおかげで、便座は電源無しでの高い保温性を保ち、耐荷重260kg、耐久性は97kgの荷重で50,000回の着圧に耐える強度を誇ります。高さは通常の洋式トイレ(約40cm)より10cm低い30cmになります。これは、医学的知見に基づき「35度に近い前傾姿勢」を自然に取れる設計で、排泄をスムーズにするとともに災害時の被災生活で起こりうる便秘対策や健康維持に貢献します。便座穴を斜めに配置し、立ち上がり時に足を引いたり手を添え易くすることで、高齢者が立ち上がりやすい設計となり、転倒などの二次災害も防止できます。さらに女性の意見を取り入れた結果、前方の穴幅を狭くすることで、幼児のお尻が落ちない構造や排尿時の音の抑制など、多岐にわたる機能性を備えており、「しっかりと役に立つ」というコンセプトのもとに製造されております。
本製品は特許を取得済みで、2020年グッドデザイン賞、2021年防災防疫製品大賞最優秀賞も受賞しています。
普及に向けては、ホームセンターの店頭実演会や防災イベントで実際に座ってもらう体験を最重視しています。「パンフレットや紙面などの2次元では価値はなかなか伝わらない。一番納得してもらえるのは、実際に座ってもらうことです」と地村氏。子どもが抱く「汚い・恥ずかしい」という心理的な壁を崩す入り口として、ゲームや体験型のアプローチを積極的に取り入れています。

BENKINGについて話す地村氏

02. 「災害モンスター研究所」による無関心層へのデリバリー戦略

製薬会社でのMR経験を経て、現在は災害モンスター研究所の所長として防災教育活動をしている石橋健次氏。東京大学生産技術研究所の災害対策トレーニングセンターで専門性を学び直した経験を持ち、「エンタメで世界の防災力をレベルアップ!」をミッションに活動されています。

山田:「石橋さんが最初に決めポーズをとって登場してきた時点で、この方は本気だなと思いました(笑)。防災教育者というより、エンタメプロデューサーとしてのキャラクターが強い。」

石橋氏が着目したのは、従来の「恐怖で煽る防災教育」が持つ構造的な限界です。恐怖を訴えるアプローチは短期的には関心を高めるものの、人間には心の平穏を保つために恐怖から逃れようとする「正常性バイアス」が備わっています。能登半島地震のような大規模災害が相次いでも、時間の経過とともに意識が薄れていくのは、決して怠惰ゆえではなく、この心理機能の自然な働きだと石橋氏は分析します。

そこで着目したのが、子どもがポケモンカードの属性や対策を自発的に覚える構造です。「ポケモン図鑑を渡せば、子どもたちは『こいつの必殺技はこうで、こうやって倒すんだ』と勝手に学んでいく。災害リスクをキャラクター化して、その『倒し方(対策)』が実際の防災対策に直結するような『災害モンスター図鑑』があれば、自然と学んでくれるんじゃないかと思ったんです。」

実際、防災白書によれば地域の防災訓練に一度も参加したことがない人は約7割と住民の多数を占めていることが示されています。石橋氏が自戒を込めて強調するのは、防災教育を届ける側に無意識に生じてしまう「甘え・思い上がり」の問題です。「防災教育、防災訓練、防災ゲーム。みんな『防災』という看板を掲げている。でも『防災』と名乗った瞬間に、無関心層はかえって逃げ出してしまう。防災は大切なことだから来て当然、という発想を私たち防災教育者が捨てることが重要だと考えます。」

石橋氏が掲げるのは、既存の娯楽などに防災要素を忍ばせる「ラッピング」と、待つのではなく届ける「デリバリー」の概念です。スポーツイベントや花火大会など、無関心層が自然と集まる場へ防災教育者が出向き、例えば助けを求める大きな声で災害モンスターを倒す「大声測定ゲーム」などを展開。参加者が「防災訓練」と意識しないまま、結果として「周囲に危険を知らせる&助けを求める大声力」という防災力が上がっている状態を作り出しています。

災害モンスターについて話す地村氏

03. ハードとソフトの両輪が揃う

〜地村×石橋の役割分担と補完関係〜

地村氏と石橋氏のアプローチは、一見異なるように見えて、実は強固な補完関係にあります。地村氏が担うのは「リアルなハード」。物理的なプロダクトで、災害時の不自由を実際に解消することです。対して石橋氏が担うのは「啓発というソフト」。災害が起こる前の段階で防災意識を育て、行動を促すことです。

地村:「私が物理的なもので実際の災害の不自由を支えるとすれば、石橋さんがやられているところはその手前側。どれだけ良いプロダクトがあっても、そこに辿り着いてもらえなければ意味がない。ハードとソフトは車の両輪だと思っています。」

石橋:「防災ノウハウって、使わないで済むのが一番ハッピーな教育なんです。一生使わないかもしれないことのために、人はなかなか頑張れない。だからこそ、その過程自体が楽しいかどうかが普及の上で欠かせないと考えています。私の活動はリレーで言うところの第一走者、楽しい遊びをキッカケとして入り口を作ることです。防災って意外と面白いと思ってくれることで、関心のバトンを次のBENKINGのような備蓄につなげていけると考えています。」

山田:「お二人がそれぞれの領域でやっていることが、実はひとつの流れとして繋がっている。石橋さんが無関心層を振り向かせて、地村さんがその人たちの命を守る。この設計が揃っていることが、今日のミートアップで一番面白いところだと思いました。」

04. 娯楽と時間を奪い合う「デリバリー型」防災の必要性

〜「看板」を掲げるのをやめる勇気〜

圧倒的な娯楽があふれる現代において、どうやって人々の関心を奪うか。製薬業界で培ったマーケティングの知見を持つ石橋氏からはシビアな指摘が続きます。

石橋:「今私たち防災教育者が戦わなければいけないのは、無料のYouTubeやゲームのように圧倒的に面白いコンテンツが溢れる世界での、有限な時間・関心の奪い合いです。その中で『防災』という看板を掲げても、無関心層には認知されない。マッチングアプリのアルゴリズムで言うなら、完全に弾かれている状態です。」

地村:「どれだけ良いトイレを作っても、二次元のポスターや動画だけでは価値は伝わらない。結局、一番納得してもらえるのは実際に座ってもらうこと。だから私は現場での実演会をとても大事にしています。」

石橋:「そういう場を作る時に重要なのが『ファーストペンギン』の存在。例えば子どものゲームイベントでも、最初の一人が楽しそうに遊び始めると、『何かわかんないけどすげー盛り上がってる』という空気が生まれる。それを見て周りが引き寄せられてくる。その環境を整えることが、防災教育者の役割だと思っています。」

山田:「防災ゲームをより広く届けるために、『PicTrée(ピクトレ)』でも似たようなことを考えていて。最初の熱狂をどうやって作るか、そこが勝負だなと感じています。」

05. 『PicTrée(ピクトレ)』を活用したインフラ情報の可視化

〜ゲームのついでに、街を守る習慣を〜

DEAが率いるインフラ点検ゲーム『PicTrée(ピクトレ)』を、防災インフラの把握に転用する可能性についても話が及びました。

山田:「『PicTrée(ピクトレ)』は、日常的に街を歩きながら写真を撮影して電柱などのインフラを点検していく、という参加型社会貢献ゲームです。これを防災設備の把握に使えないかと考えていて。実は自治体ですら、マンホールトイレの正確な位置をデジタルで把握しきれていないこともある。住民がゲーム感覚で『よし、ここにある』と確認しに行く習慣が作れたら、非常に有効だと思っています。」

地村:「本当にそう思います。高知の津波避難タワーも、『場所は知ってるけど登ったことはない』という人が多い。いざという時に逃げられないんですよね。平時のうちにゲームで一度行っておく、というのはすごく意味がある。」

亀山:「BENKINGの販売データを地図化して、自治体がマンホールトイレの配置を最適化するという話も聞かせてもらいました。現実のデータとゲームを連携させると、地域全体の防災力が上がる。個人の備蓄と公的インフラを合わせた面的なアプローチができる。」

地村:「おっしゃる通りで、売った先の住所をデータベース化して分布図を作れば、『この辺は民間備蓄が厚いから、公的なトイレはこちらに優先して設置しよう』という判断材料になります。トータルで誰もがトイレを使える街になっていく。ビクトレのような仕組みと連携して、そこまで持っていきたいと考えています。」

06. 地域対抗戦で「防災ステータス」を創る

〜ナショナリズムと競技性を熱量に変える〜

ゲーム特有の「競い合い」や「ランキング」を、地域の熱量に変える仕組みについても議論が盛り上がりました。

山田:「『PicTrée(ピクトレ)』で、地域対抗戦をやりたいと考えています。亀山さんと一緒に取り組んでいるプロジェクトですが、甲子園みたいに『俺たちの町が日本で一番防災力が高い』というのを、数値とランキングで証明できる仕組みにしたい。直近で言うとWBCでベネズエラの試合を、おばあちゃんと小さな子供が一緒に熱狂している映像を見て、世代を超えるあのエネルギーこそが無関心層を動かす鍵だと感じました。」

山田:「それぞれの地域が競い合って、来年こそは追い越すぞとなれば、本当に持続可能なゲームになりますよね。スポーツやナショナリズムのエネルギーを防災に持ってくる。そこに火がつけば、誰かに言われなくても続けていく。」

石橋:「数値化・見える化して、それを競い合い、上位の人が称えられる。防災力がめちゃくちゃ高い、かっこいい、という文化が作れるといいですよね。英語がペラペラ、数学が得意、と同じように評価される。」

山田:「そこに、地域の世話焼きおじさんだけじゃなくて、ファッションやライフスタイルのリーダーが関わってくると面白い。防災エリートが憧れの対象になる、そんなステータス感が必要だと思います。」

ここでトークイベントに参加していた高校3年生の久木野さんから、実体験を交えた「ゲームと学び」の可能性についてのコメントがありました。

Kさん:「化学の授業で元素記号を使ったカードゲームが流行った時、苦手だった元素記号を『勝ちたい』一心で自然と覚えることができました。ゲームになると『勝ちたい』という気持ちが生まれて、気づいたら勉強になっている。防災も同様に、夢中になれる遊びの入り口があれば、意識に深く定着するんじゃないかと思っています。自分もこんなゲームを作りたいというビジョンがあります。」

山田:「その『勝ちたい』という純粋なエネルギーを防災にスライドさせる。これこそがプレイデザインの役割だと思います。高校生がそのビジョンを持っているというのが、この取り組みの可能性を一番象徴していますよね。」

DEA山田・SIGNING亀山氏

07. 遊びの力で、防災を「義務」から「文化」へ

〜日常のプレイのなかに、備えを溶かす〜

最後に、防災を「特別な行事」ではなく個人のライフスタイルとして定着させるにはどうすればよいか、議論が深まりました。

亀山:「今日お話を聞いて改めて感じたのは、防災に関心がある層が2割、完全無関心が2割、残り6割は『やらなきゃとは思っているけど動けていない』という人たちだということ。この6割を動かすのが、今日お二人が話されたデリバリー型・ラッピング型のアプローチだと確信しています。」

亀山:「本田圭佑さんと防災の仕事をさせていただいた時に、『自分はアスリートだから常に危機のシミュレーションをしている。最悪のケースに備えるのは自分のポリシーだ」とおっしゃっていました。防災を特別なことと考えず、行動指針の一部として自然に組み込んでいく。それがライフスタイルとしての定着だと思います。」

石橋:「防災ノウハウって、使わないで済む方が一番ハッピーなんです。一生使わないかもしれないことのために人間はなかなか頑張れない。だからこそ、その過程自体が楽しいかどうかが、普及の上で欠かせない要素になる。その場でフィードバックが完結して『気持ちいい』と思える仕組みが、短期的な報酬として機能して、続けられるデザインになる。」

亀山:「『防災ポイント』で寄付につながるサービスを作ったり、アスリートの知見を防災に活かす取り組みをしてきて感じるのは、防災を特定のコミュニティで完結させないことの大切さ。サバイバルはエンタメ業界でも高い価値を持っていて、そこと繋げていくことが無関心層への最大の入り口になると思っています。」

山田:「小さな成功体験を遊びにラッピングして届けていく。そのスタイルが積み重なることで、防災が義務から文化へと変わっていく。今日のミートアップがまさにその一歩だったと思います。」

地村氏・石橋氏

07. 遊びの力で、防災を「義務」から「文化」へ

防災を日常の「遊び」や「ライフスタイル」へ溶け込ませるためには、正論で説得するのではなく、人間の「楽しみたい」「心地良くありたい」という本能をエンジンにすることの重要性が語られました。

このアプローチこそが、意識はあるが行動できない「社会の6割」を動かすヒントになります。遊びの力で防災を「義務」から「文化」へと変えていく。プレイデザインが描く未来の形が、そこにはありました。

※当日の様子はこちらの動画をご覧ください

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